羊たちの沈黙/ハンニバル・レクターシリーズ最高傑作あらすじ ネタバレ 考察など
『羊たちの沈黙』の紹介です。女性の口元にとまったドクロ模様の蛾のポスターが実に印象的ですが、この「蛾」や「羊たち」とは何だったのかその意味や正体について解説します。
1991年公開のアメリカ映画
原作:トマス・ハリス 監督:ジョナサン・デミ 脚本:テッド・ダリー
出演者:ジョディー・フォスター、アンソニー・ホプキンス、スコット・グレン、テッド・レヴィン他
「羊たちの沈黙・ハンニバル」シリーズの見る順番
映画『羊たちの沈黙』には続編や過去にさかのぼったシリーズ作品が複数存在しています。現在公開されている映画作品は全部で5作品あります。
映画の公開順
①『刑事グラハム/凍りついた欲望』(1986年)
②『羊たちの沈黙』(1991年)
③『ハンニバル』(2001年)
④『レッド・ドラゴン』(2003年)
⑤『ハンニバル・ライジング』(2007年)
ハンニバル・レクターシリーズを語る上でスルーされがちなのが①の『刑事グラハム/凍りついた欲望』です。これはトマス・ハリス原作の『レッド・ドラゴン』の初映画化作品で2003年の『レッド・ドラゴン』はそのリメイクです。また『羊たちの沈黙』のヒット後『レッド・ドラゴン/レクター博士の沈黙』というタイトルでDVD化されていますが内容は同じものです。
時系列順
そして時系列順に並べ変えるとこうなります。
①『ハンニバル・ライジング』
②『レッド・ドラゴン』『刑事グラハム/凍りついた欲望』
③『羊たちの沈黙』
④『ハンニバル』
さらにTVドラマ版『HANNIBAL』をハンニバル・レクターの年齢順で加えるとするなら『レッド・ドラゴン』の3年前にあたります。
映画の見る順番のおすすめは公開順で『羊たちの沈黙』→『ハンニバル』→『レッド・ドラゴン』→『ハンニバル・ライジング』と見ていくのが良いでしょう。
また『羊たちの沈黙』→『HANNIBAL』と一気にドラマ版にいっても良いと思います。
ホラーでアカデミー賞主要5部門受賞の快挙
第64回アカデミー賞にて作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞、主演女優賞の
5部門を受賞した名作ホラーサスペンスです。
これまでもホラー映画というのはアメリカでは人気が高い映画のジャンルでは
ありましたが、SF映画とホラー映画はアカデミー賞を取りづらいジャンルと
言われています。
メイクアップ賞や音響、衣装デザインといった部門で受賞する事はあっても
ましてや作品賞を受賞するなど、製作スタッフ達も誰一人想像もしていませんでしたし
その様な賞を取る映画として取り組んではいませんでした。
このように映画製作時から大きな期待はされておらず予算も多くはありませんでしたが
人間の心の弱さや深層部分など巧みに描き、主演賞をダブル受賞した
アンソニー・ホプキンスとジョディー・フォスターの観客を圧倒した演技力が
この作品を受賞に導いたのでしょう。
「羊たちの沈黙」あらすじ
FBIアカデミーの学生、クラリス・スターリングは主任捜査官のクロフォードから
逃走中の犯人バッファーロー・ビルについて、投獄中の囚人であり元精神科医の
ハンニバル・レクターから事件解決のための助言を求めてくるように命じられます。
レクターはクラリスの聡明な態度からクラリス自身の過去に興味を持ち
彼女の過去を語らせる事を条件に協力を申し出ます。
「羊たちの沈黙」の登場人物
クラリス・スターリング(ジョディー・フォスター)
本作の主人公。FBIアカデミーの実習生で正式な捜査官ではない。聡明な頭脳と勇敢さを併せ持っている。また人々の目を引く美貌の持ち主で時にはその美貌も利用するしたたかな部分も持ち合わせている。
幼少時に保安官の父が殉職したことから親戚の農場に引き取られたが、そこで屠殺される羊たちの姿を目撃しショックを受けたクラリスは一頭の子羊を抱えて逃げ出したが結局クラリスは連れ戻されて子羊も殺されてしまう。この事がトラウマとなって彼女を悩ませ続ける事になるが、ハンニバルに関心を持たれる切っ掛けにもなった。
ハンニバル・レクター(アンソニー・ホプキンス)
天才的な頭脳を持った優秀な元精神科医。カニバリズム(食人)による連続殺人を繰り返しFBI捜査官のウィル・グレアムによって逮捕された。終身刑の囚人の身でありながら取引により警察に捜査協力をしている。協力の見返りとして獄中での絵画制作や精神医学論文の発表をするなど世間に影響を与え続けている。
ジャック・クロフォード(スコット・グレン)
FBI行動科学課の主任調査官でクラリスの上司である。バッファロー・ビル事件の捜査に行き詰っていてハンニバルに捜査協力を求めるも協力を得られず、代わりに部下のクラリスを使ってハンニバルから情報を得ようとする。
バッファロー・ビル(テッド・レヴィン)
連続殺人鬼。若い女性を誘拐し身体の皮を剥いでその皮で服を作って着ていた。美しい女性になりたいという歪んだ変身願望を持ち、変身の象徴として蛾を飼育していた。
ハンニバル・レクターのモデル
トマス・ハリス原作の「羊たちの沈黙」「レッド・ドラゴン」そこに登場するハンニバル・レクターという殺人犯は人の肉を食べるために殺害を繰り返しました。そのハンニバルにはモデルとされる人物が複数存在しています。
ジェフリー・ダーマー
その中の1人はジェフリー・ダーマーと言います。「ミルウォーキーの食人鬼」という異名を持つその男はウィスコンシン州ミルウォーキー住んでいました。
逮捕されるまでに17人を殺害、遺体を切断し食肉として冷蔵庫に保管していました。
ダーマーは同性愛者で特にハンサムで筋肉質な黒人を狙った。
ダーマーは16件の殺人で起訴されると弁護団は精神異常を主張しましたが、ダーマーは全面自供し有罪の判決を受けました。ダーマー自身「刑の軽減は望んでいない死刑だけを願っている」と判決前に話していたがウィスコンシン州では死刑は廃止されており、ダーマーには957年の禁固刑が下されました。
しかしダーマーはこの終身刑を全うする事無く刑務所内の施設で同じ受刑者で精神異常者の黒人男性に殺害されたのでした。
ヘンリー・リー・ルーカス
全米17州で360人あまりを殺害しているとされる。
『羊たちの沈黙』のタイトルの意味
レクターはクラリスに今までで一番辛かった思い出を話せと言い、クラリスは少女時代の事を語り始めます。アカデミーの実習生クラリス・スターリングは幼い時に警察官の父を強盗に射殺され失っています。
両親を失い孤児となったクラリスは羊牧場の夫婦に預けられ暮らす事になるのですが
牧場では羊たちの皮を剥いで屠殺しているのを見てしまい、羊たちを助けたいとの思いから1頭の子羊を抱いて逃げてしまいましたが結局つかまってしまいます。
その時の羊の叫びがトラウマとして現在も残り続ける事になるのでした。
タイトルの「羊たちの沈黙」(原題:The Silence of the Lambs)ですが沈黙というのはつまり「殺された羊たち」を指します。
原題「The Silence of the Lambs」の「Lamb」(ラム)は羊とか子羊という意味もありますが、子羊はキリスト教では臆病で従順の象徴とされ神のいけにえにされてきました。また「臆病な人」「被害者」という別の意味も持っています。
そして今回の事件の被害者の女性たちもクラリスから見た「殺された羊たち」なのです。それはこれからが立ち向かう事件がクラリスのトラウマと向き合う事である暗示でもあります。
物語のラストでハンニバル・レクターがクラリスに対して「子羊たちの悲鳴はまだ聞こえるのか?」と言ったのは事件の解決によってトラウマは解消できたか?と聞いていたのです。
蛾の持つ意味とモチーフの元ネタ
性器を股の間に挟んで女装をし、女性の皮膚をなめして作ったドレスを着て蛾が羽ばたく様に踊り狂う歪んだ変身願望を持っている殺人犯で被害者の喉に特殊な蛾のさなぎを押し込んでいました。
バッファロー・ビルはレクター博士のかつての患者でもあり研究対象でもあり実はよく知っている人物でもあったのです。
バッファロー・ビルは実在した複数の殺人犯をモデルにしており、怪我で身体が不自由なふりをして女性に手を貸して欲しいと助けを求めたところで襲うなどの犯行手段は実際に用いられた手口であったそうです。
バッファロー・ビルはアケロンティア・スティックスという髑髏模様をした特殊な蛾を飼っていましたが、映画に登場する蛾の髑髏模様はサルバドール・ダリの作品がモチーフになっています。これは原作には無かった描写で映画独自のアレンジです。
またスタッフも製作している時は気がそちらにまで回らず想像もしていなかったそうですが、犯人のバッファロー・ビルが同一性障害者であった事から映画の公開当時はいろんな団体から抗議の的にもなったそうです。
レクターの逃亡
クラリスのトラウマを穿り返した事で満足したレクターはその後すぐに
警備員達を殺して脱獄します。レクターにとっては拘束されていようと
出ようと思えばいつでも脱獄可能だったのです。
この時の殺し方がまた異常に手が込んでいて背中の皮を開いて蝶や蛾の羽の様に広げて天井から吊るして見せ付けるところなどとても印象的でした。
この辺りも原作にはない映画で加えられた表現なのですが死体をアートの様に扱うところはレクターの美意識によるもので後のTVドラマ版の「HANNIBAL」ではそれを更に昇華させた魅せ方をしていきます。
警備員を殺したレクターは剥ぎ取った警備員の顔の皮をかぶり、被害者を装い救急車で搬送されるという手口で脱走を果たします。
子羊の悲鳴は消えたか
レクターから与えられたヒントを頼りに犯人に辿り着き
バッファロー・ビル事件を解決したクラリスの元に逃亡中のレクターから連絡がきます
「子羊の悲鳴は消えたか」と事件の解決によってクラリスのトラウマの克服、
子羊というのは勿論クラリス自身の事でもあるのですが、クラリスは本当に救われたのでしょうか。レクターはこれから古い友人と食事をする(チルトンを殺害して食べる)と告げそこで物語は終わります。
ジャック・クロフォードの手口
小説でのクラリスの上司、クロフォードはクラリスに対して恋愛感情のようなものを抱いていたのですが
「レッド・ドラゴン」からの流れで観るとクロフォードはレクターの様な危険人物の所によくもまあ正式な捜査官でもないクラリス1人で向かわせましたが
ドラマ版「HANNIBAL」では同じ手口で訓練生の女性に捜査を任せたところクラリスのように上手くはいかず犠牲になってしまうのですが・・・
原作小説ではクロフォードも独自に捜査をしている場面も描かれていたり癌を患っている妻がいるなど映画で省略されてるエピソードもあります。
「羊たちの沈黙」の続編
物語はバッファロー・ビル事件から10年後を描く続編映画『ハンニバル』に続きます。正式なFBI捜査官となっているクラリス。そして逃亡中のハンニバルを巡る復讐の策謀。
まとめ
この頃のジョディー・フォスターは若く可愛らしくて大変好きでした。今では気の強いオバサンですが
続編の「ハンニバル」では出演を辞退して変わりにジュリアン・ムーアがクラリス役を引き継ぐ事になるのですが・・・
しかしこの「羊たちの沈黙」は今観てもさほど古さを感じさせません。
製作側も10年、20年経っても観られるようにと時代背景を厳密に設定せず登場人物の服装や髪型などのファッションも当時の流行スタイルからあえて避ける事で年代を感じさせないように気を配っていたそうです。
だから今観てもセンスがいいと感じる事が出来るのかも知れません。
それでは以上、『羊たちの沈黙/ハンニバル・レクターシリーズ最高傑作あらすじ ネタバレ 考察など』でした。