スティーヴン・キング原作『シャイニング』から続編『ドクター・スリープ』まで解説

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『シャイニング』はスティーヴン・キングが1977年にが書いた長編小説の3作目に当たる「幽霊屋敷」をテーマにしたホラー作品です。キングはアメリカでは出す作品のことごとくが大ベストセラーとなる人気作家ですが日本では原作小説よりもスタンリー・キューブリック監督による映画版の方がはるかに有名でしょう。ジャック・ニコルソンの顔芸ジャケットは誰もが一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

後半ではすでに映画化も決定している『シャイニング』から36年の時を経て出版された続編『ドクター・スリープ』についても触れていきます。 

 

キューブリック版 映画『シャイニング』のおさらい

スタンリー・キューブリックと言えば『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』『アイズワイドシャット』 などが有名ですが分かりづらい映画をわざと撮る監督です。

 『2001年宇宙の旅』ではアーサー・C・クラークと共同脚本という事で小説と映画を同時発表する予定だったが映画の難解に仕上げて高尚っぽくなってる部分が小説版では文章で全部説明され補完された内容になってる事から映画のネタばらしになってしまうと、圧力をかけて本の出版を2ヶ月遅らせたりしてクラークとは険悪な仲になったままになっています。

(キューブリック作品ではありませんが「2001年」を観たら続編の「2010年」もおすすめします。)

 

 

同様に『シャイニング』でも原作者のスティーヴン・キングと揉めてキューブリック亡き今も映画版のバッシングをあちこちで書いているほどです。

 

コロラド州の山脈に立つ「オーバールックホテル」ここがこの映画の舞台となります。

小説家志望のジャック・トランスは冬季閉鎖されるホテルの管理という職を得て妻と子供を連れて訪れます。

支配人によると「前の管理人であるチャールズ・グレイディが、孤独に心を蝕まれ家族を斧で惨殺し本人は自殺してしまったという事件が起きているいわく付きのホテルだ」と言いますがジャックはそんな事件があっても気にする素振りも見せません。

息子のダニーには不思議な能力「シャイニング(かがやき)」を持っています。そしてこのホテルで様々な超常現象を目撃します。まもなくジャックはホテルの閉鎖空間の中で徐々に精神に異常をきたしていきます。

 

 

『シャイニング』の原作と映画の違い

原作では舞台となったホテル自体が邪悪な思念を持つ強大な存在として描かれるのに対して映画版ではその描写が薄く、ホテルの思念によってジャックを狂気へと導く原作の描写からキューブリックの映画版では仕事のストレスや孤独感からのプレッシャーに耐えかねて発狂しているように見えてしまっています。

あと、あの印象的だった217号室の双子の女の子も原作には登場しません。

 

またジャックがバーで酒を飲むシーンはありますが、ジャックがアルコール依存症である描写はあまりされていません。元々キング自身がアルコール依存症から抜け出したという体験がありきで、アルコール依存の描写については後の『ドクター・スリープ』も含めて結構重きを置いています。

 

また原作では重要な役割を持っているダニーと同じ超能力を持っているコックのハローランも映画ではダニーを心配してホテルに様子を見に来たところを何も出来ずにジャックに殺されてしまいます。こうなってしまうとこいつの存在自体が意味不明ですが原作のハローランは最後まで生き残りますし、そもそも原作でのジャックは誰も殺していません。

 

ダニーも奥さんのウェンディもジャックがホテルによって手下にされているのを感じ取って分かっています。そして最後の瞬間ジャックは少しだけ自分の意識を取り戻し「ドック・・・」と両親だけが呼ぶダニーの愛称を口にすると、早くここから逃げろとダニーを諭します。そしてダニーたちがホテルから脱出すると、直後ジャックもホテル自身もチェックを忘れていたボイラーが爆発を起しホテルは倒壊してしまいます。

 

雪の中迷路で最後までダニーを追って凍死した映画版。最後に意識を取り戻し「パパがどれだけお前を愛したかを忘れるな」と息子と妻を逃がそうとする原作版とジャックの死に様にはかなりの違いがありました。

 

 

スタンリー・キューブリックとリドリー・スコット

キューブリックの映像作りにはその後の映像作家達に多大な影響を与えています。

その中でも強く影響を受け継いだのが『エイリアン』『ブレードランナー』のリドリー・スコット監督です。彼は映画監督になる以前はイギリスでテレビCMを数百本と撮っていたCM監督で映画を製作する際にも脚本や役者の演技よりも映像作りの方ばかりに目を向けていて時には自分でキャメラを覗いて撮影する事もあった程です。

なかでも『ブレードランナー』では『シャイニング』に出ていた幽霊のバーテンダーを演じた役者を連れてきてタイレル社の社長役にしています。理由はキューブリックが使っていたからです。

役をやらせてから分かったそうですがこの俳優は台詞が全く覚えられず撮影中はずっとカンペを読んでいたそうです。

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シャイニングのバーテン

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ブレードランナーのタイレル社長

 

そしてファンの間でも有名なのがオリジナル劇場公開バージョンに使用されたエンドロールの空撮映像。これは『シャイニング』のオープニングショットの別テイクを流用したものです。

 『シャイニング』のオープニングで使われた数分間のためにキューブリックは14時間もの空撮映像をカメラに収めており使用されなかったカットをキューブリックの許可を得て『ブレードランナー』で流用しています。

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シャイニングのオープニングの空撮

 

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ブレードランナーのエンディング

 

 

流用といえば話しが横道にそれますが『ブレードランナー』に出てきた未来の自動車「スピナー」は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のパート2にもセットの一部として流用されています。

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しかもこれ『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』では一瞬画面に映るだけですが日本の模型メーカー「フジミ模型」からバック・トゥ・ザ・フューチャーのグッズとしてプラモデル化しています。

これにはブレードランナーで版権取得できなかったフジミが金型はそのままにバック・トゥ・ザ・フューチャーの模型として版権を取って力業で販売にこぎつけたという経緯があります。

 

 

リドリー・スコットの話しに戻りますが、2012年公開のエイリアンシリーズ『プロメテウス』のストーリーは世界中で発掘された古代壁画から人間を作り出した異性人か?はたまた神のような存在いるのではという仮説から遺跡の示す惑星まで宇宙船プロメテウス号で調査に向かいます。

これはまさに神に会いにモノリスが示した木星へと行く『2001年宇宙の旅』のプロットに酷似しています。そしてもう一つがアンドロイド「デイビット」の存在です。人間によって作られた機械であるデイビットが人類への反抗をするあたりを2001年~に当てはめるとこれも2001年~に登場したスーパーコンピューター「HAL9000」のオマージュでもあり、キューブリック原案・スピルバーグ監督作品『AI』に登場しているアンドロイドの名前も「デイビット」である。

 『AI』は元々スタンリー・キューブリックの企画でしたが彼が死去したためスティーブン・スピルバーグによって製作されました。

デイビット=ダビデから来るどちらも旧約聖書が元ネタという只の偶然かも知れませんが私は意識していない訳はないと思いますがどうなんでしょうね。

 

 

作者の手によるリメイク ドラマ版『シャイニング』

スティーヴン・キングはキューブリックの映画『シャイニング』での改変されぶりを認めておらず近年でもまだあの映画は駄目だと悪く言っています。

キューブリックとの軋轢はキャスティングの段階から生じ始めていました。原作では善良な市民であるジャック・トランスがホテルの持つ力に段々と取り込まれていくのですが、あいつはジャック・ニコルソンのような最初からクレイジーな奴を抜擢したのだと腹を立てています。

あまりに納得いかなかったため遂にはキングは自分自身で原作準拠な『シャイニング』を撮り直している程です。このリメイク版は原作者自ら製作に乗り出していることもあって内容は原作に忠実です。だからといって面白いかといえばまた別なのがなのですが原作で扱っているテーマを理解する上では非常に手助けになります。

 

 

 『シャイニング』の正統な続編『ドクター・スリープ』

『シャイニング』の続編『ドクター・スリープ』はあくまでスティーヴン・キング原作小説の続編でありスタンリー・キューブリックの映画の続きではありません。

スティーヴン・キング自身、ダークタワーのように元からシリーズ物として書いたものとは別として小説の続編を書くというのは初めての試みでした。切っ掛けは自身のサイン会でファンの1人から「シャイニングの主人公ダニーがその後どうなったかご存知ですか?」とたずねられた事から端を発し、自分でも意外な事にその事が頭から離れなくなり気が付けばダニーの現在の年齢を計算していたりはどんな大人になっているのか?そればかり考えていました。

これはもう覚悟を決めて取り掛かるしかないなと妻や息子(息子も小説家です)にアドバイスをもらいながら書き上げました。

 

作者自身があとがきで映画の続編ではない事を強調しているように映画を観ていただけではダニーの超能力(かがやき)についてや父との関係がきちんと描かれていないし、映画ではダニーと同じ能力を持つ事をほのめかしていたが結局何もせずに殺されてしまったコックのハローランも原作では最後まで生き残りますし結構活躍だってします。

 

おそらく原作を読んでない人はそもそもこの『ドクター・スリープ』にも手は出さないとは思いますがもしも今後興味を持って読まれるのであれば、せめてドラマ版の『シャイニング』の方だけでも先に観ておくのがよいでしょう。

 

 

『ドクター・スリープ』あらすじ

 冬季閉鎖された景観荘(オーバールックホテル)の惨劇から30年が経ち当時少年だったダニー・トランスは父と同じくアルコール依存症に苦しむ中年男になっていました。

ダニーの持つ超能力は彼を人々から遠ざけますがホスピスで介護士として死に行く人々の手助けをするのには役に立ち、「ドクター・スリープ」というあだ名で呼ばれるようになります。

ダニーは遠く離れた人里に自分と同じ超能力を持った女の子「アブラ」が居ることを知り、その彼女に危険が迫っている事を「感応」によって察知します。

彼らのような能力を持った子供たちの生命エネルギーを吸って生きている「真結族」というヴァンパイアの集団がアブラを狙っています。ダニーはアブラを救うため真結族と戦う決意をし死闘を繰り広げます。

 

 

映画『ドクター・スリープ』の劇場公開は2020年

1980年公開の映画『シャイニング』から40年、2020年1月24日アメリカ公開に向けて『ドクター・スリープ』が映画化される事が発表されました。

 

主人公、ジャック・トランスを演じるのはユアン・マクレガー。代表作は「スターウォーズ」3部作でオビ=ワン・ケノービを演じていました。

監督はマイク・フラナガン。スティーヴン・キング原作でNetflix製作の映画『ジェラルドのゲーム』でメガホンを取った事で話題になりましたホラー業界の新進気鋭です。

日本での公開時期については未定ですが期待が高まります。

 

まとめ

今回記事を書くにあたり、原作を引っ張り出してパラパラとチェックしてたらいつの間にか真剣に読んでしまってました。

それでは以上、『スティーヴン・キング原作『シャイニング』から続編『ドクター・スリープ』まで解説』でした。

 

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