「竜魔神姫ヴァルアリスの敗北」の感想 飲食店を戦場に飯を食うグルメ小説
先日、本屋巡りをしながら合間に食べ放題のバイキングに入りました。和洋中様々な料理やスイーツも取り放題でなんだかまるで…テーマパークに来たみたいだぜ テンション上がるなぁー
さらにその先週には焼肉バイキングのすたみな太郎で肉をたらふく食べてきました。ここも焼肉だけではなくカレーやラーメン、パスタやピザなど色々なメニューを好きに選んで食べれるので時々利用しています
しかし私の好きなグルメ漫画『食の軍師』の登場キャラ、本郷さん曰く食とは合戦。戦場でどのような布陣でその店を攻め落とすか注文の仕方から食べる順序まで、これは店との戦いである。食べ放題だからといって何でも詰め込もうとしてはまさに敗北は必死である。
「竜魔神姫ヴァルアリスの敗北」は美少女版「食の軍師」
仁木克人 著・茨乃 イラストによる『竜魔神姫ヴァルアリスの敗北~魔界最強の姫が人類のグルメに負けるはずがない~』というライトノベルを購入しました。
「電撃の新文芸」という電撃文庫から分かれた新しいレーベルから出た第一弾の小説です。同時に出たラインナップの中には鎌池 和馬の新作もあり、かまちー何作掛け持ちしてるんだとびびってしまいます。
ストーリーはよくある異世界転移・転生で無双するお話の逆。異世界からやってきた最強の存在が人類に敗北しまくるというお話です。
魔界の魔族の頂点に君臨する竜魔神姫ヴァルアリス。彼女は人類を滅ぼすために人間界へやってきた。人間のような脆弱な生命体を一刻も早く葬りその魂を魔界の贄としてくべる必要があると考えていました。
東京都の杉並区に転移したヴァルアリスはTPOに応じた装いで外見年齢に合わせた女子高生の格好をし杉並区阿佐ヶ谷の地を闊歩していました。昔ながらの商店街に差し掛かると馴染みのない匂いに気付く、「ミートたけざわ」という生肉店からその匂いは漂っていた。
人間の食料か、どの程度のものか試してやるとしよう。事前調査で調べ宝石を換金した人間界の貨幣300円を支払いメンチカツを購入し口にする。
(うあああ熱っフゥウウッ!?)
揚げたてのメンチカツの熱さを知らないヴァルアリスは膝を折り屈みこみ、人間め魔力を持たぬ下等な存在が・・・と恨みながら程よく冷めはじめたメンチカツを噛み締め味わうと衝撃に襲われます。ヴァルアリスは興奮と感動により膝を震わせながら、その後2ページに渡ってミートたけざわのメンチカツの美味さが語られ、メンチカツの味に脳を支配されたヴァルアリスは食べるのを止められなくなっていました。
なんとか精神の均衡をギリギリのところで保ち失神する事無く食べきって見せた。勝利の笑みを浮かべるが店のショーケースには『チーズメンチ』、『しそメンチ』などのバリエーションが並んでいる事に気付くと恐怖と混乱の叫びを上げて魔界に逃げ帰るのでありました。
これはこの流れは『食の軍師』にそっくりではないか、各話のサブタイトルこそ第一話「杉並区阿佐ヶ谷のメンチカツ」、第二話「千代田区神保町のチキンカレー」といった具合に同じ原作者の『孤独のグルメ』っぽいが、相手は勝負をしているつもりはないのに勝手に食を戦になぞらえて勝負を挑み毎回敗北して帰ってくる独り相撲っぷり。
そう考えると面白くてたまりません。
ルビが酷い(褒め言葉)
1ページ目からまず感じた事はルビで笑わせに来ているという事。ヴァルアリスの肩書き「竜魔神姫」に加えて「影化疾走術」、「神格天魔星将」、「霊的結界防護壁」、「破断時空転移陣」などルビで笑わせに来るのはずるい。
この魔界ルビに集中力を持っていかれて肝心の内容が頭に入ってこなくなるんです。
毎回、冒頭では魔界内での侵略戦争や政治的な難しい割とシリアスな話から始まり、それから人間界に赴き食事をするというのが一連の流れなのですが、魔界パートではこの手のルビがふんだんに出てくるので真面目な話をしているにも関わらずその内容がちっとも頭に入ってこないのです。
早速コミカライズも決定しているそうですが、今後もしアニメ化するような事があったらどう処理するつもりなのでしょうか。そのまんまルビを読み上げるしかないのだろうけど文字による面白さはかなり削がれるだろうなぁ。
姫様がポンコツ可愛い
神保町のカレー屋では「この店で最高のものを持て」と言い店員とのコミュニケーションに齟齬を生じさせたまま一番最高の激辛カレーを出されたりとヴァルアリスは入る店の先々でポンコツ具合を発揮していきます。
メンチカツやカレーで敗北したヴァルアリスはWEBで店の事前調査をしメニューを頭に入れてくるなどの対策をしたり、銀座の高級寿司店に行く際にはあらかじめ予約を取っていく周到さも見せたがこの作品はタイトル通り竜魔神姫ヴァルアリスが敗北する物語なのである。
ヴァルアリスのポンコツぶりはしばし突発的に人間界でその能力を振るってしまいます。激辛カレーで悶絶し激昂した勢いで魔法が発動し店員を殺してしまい、慌てて蘇生魔法をかけて生き返らせたり
寿司屋では店主の握りの早業をじっくり見るため店主の周りの時間の流れを操作しスローモーションで動かしたり、焼肉店では網に乗せすぎて火の上がった肉を退避するため腕を6本に増やしているところをベトナム人店員に見られたりしています。
そんな感じで結構うっかりじゃ済まされないような事もしでかしています。
美少女が美味しそうに食事を食べる姿って良いよね
私はグルメ漫画が好きです。「孤独のグルメ」や「食の軍師」など久住昌之原作の作品や「食いしん坊」、「極道メシ」などの土山しげる作品もおすすめします。
世のグルメ漫画の多くはオッサンが主人公な作品が殆どですが、因みに私の中ではグルメ漫画と料理漫画は別ジャンルの作品として区別をしています。
グルメ作品は基本的に自分が食べるだけの漫画です。店で食べたり、自分で料理を作る事もありますが相手に食べさせるためではなく自分が食べる物を作ります。「孤独のグルメ」「そばもん」等
料理作品は料理勝負のためだったり料理で人を改心させたり趣向を凝らした料理で解決する作品です。「ミスター味っ子」「クッキングパパ」「ザ・シェフ」等
「ザ・シェフ」の味沢匠など料理が全然目立たず、最後に味沢が辛辣な説教をして去るといった振り分けが難しい作品もありますがそんな感じです。
以前はおっさん主人公の多いグルメ作品ばかりでしたが最近だと美少女モノのグルメ作品もよく見かけるようになりました。
ポルトガルから来た女の子が節約料理を楽しむ『くーねるまるた』や授業中に鉛筆に見せかけたプレッツエルや辞書に白米の詰まった弁当箱を隠したステルス食いをする女の子を観察する『もぐささん』、そして『ラーメン大好き小泉さん』等々・・・
こうした女の子が素の姿で美味しい料理を夢中になって食べてる姿は良いよね。
「竜魔神姫ヴァルアリスの敗北」でもそうした食べっぷりが可愛らしく描かれます。
「渋谷原宿のパンケーキ」の章では魔界での式典をさっさと閉会させて一日限定50名までの限定スイーツの列に滑り込むようにして並びに行くヴァルアリス。人間界のTPOに合わせたゴスロリファッションに身を包み、たっぷりとクリームの乗ったパンケーキを一口食べるとそれまでのポーカーフェイスは崩れ人類を滅ぼすことなど忘却の彼方となってしまいます。
内心激しく悶絶しながら食べるも周りからは表面上美少女が笑顔でパンケーキを食べてるようにしか見えず、その姿にウエイターやシェフも口をほころばせます。
全て完食し敗北を味わった帰り際に来月の限定パンケーキの予告の文字を見つけまた来る決心をするのでした。
挿絵の絵柄の可愛さも相まってほんわかしてしまいます。
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まとめ
作中で地名や店名まで書かれているので実在の店があるのかと思って検索したのですが、モデルとなった店はあるようですが登場するのは全て架空のお店のようです。
ただ一軒、巻末のつけ麺屋の話だけは特別に取材許可を取って執筆しているらしくお店の地図や営業時間などの正確な情報も掲載されていました。
口コミも悪くないようなのでいつか訪問してみたいと思います。
それでは以上、『「竜魔神姫ヴァルアリスの敗北」の感想 飲食店を戦場に飯を食うグルメ小説』でした。