実写版ソニック・ピカチュウに見る3DCGアニメ映画のリアリティレベルの難しさ

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セガの人気ゲームシリーズの「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」をアメリカが実写映画化して2019年11月に公開する事になりました。しかし予告編ムービーがネット上に公開されると同時に世間ではソニックのデザインに対する否定的な声が多くあがり、それを受けて監督はデザインの変更を約束する事態になってしまいました。

 

発表された「ソニック・ザ・ムービー」トレーラー

www.youtube.com

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左が映画版で右がゲーム版のデザインです。元デザインでは目が繋がってたのが独立し、手袋がなくなって白い素手に変更。全体的に元のデザインのアニメっぽさが消えて人間の子供っぽいプロポーションになっています。「スターフォックス」の新キャラか何かですかね?

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ソニックはハリネズミのキャラクターなのですが口の中には人間のような歯が生えています。実写に馴染ませるどころかかえって不気味になってしまってます。

 

予告映像を見るとキャラクターのデザインもそうなんですがストーリーの方もなんだかそれじゃない感じが凄くします。

私はメガドライブの初代ソニックとゲームギア版しかプレイしていませんが、こんな軍隊が出てきたりとかそういったストーリーではなかったと記憶しています。後のシリーズを知らないのでなんとも言えませんが、デザインを修正したからと言ってどうにかなる段階でもなさそうです。

  

ソニックの生みの親「良い方向にむかうと良いですね」

「ソニック」のゲームプログラマーで生みの親、また「ファンタシースターオンライン」の製作者で現在はスクウェア・エニックスに所属している中 祐司さんはデザインが不評なのを見て以下のように語っています。

 

この映画のCGを製作している「マーザ・アニメーションプラネット」は元々は中さんが立ち上げた部署だったそうです。

また中さんは映画にエキストラ出演させて欲しいお願いしていたそうですが忘れられてしまったようです。生みの親といっても映画に口を出せる立場ではないようで、「かなり違和感がありますが何回か見ていると少し見慣れてきます」とも語り、見たくない映画が出来上がっていくのを黙って見守るしかない状況だという事が見て取れます。

なんだか「ドラゴンボール・エヴォリューション」の時の鳥山明先生の冷めた投げやりコメントを思い出しますね。

 

そしてあまりの不評さに映画のデザイン変更が発表されました。ファンの力に勝るものはないですね。ストーリーに関しては既に撮り直しが利かないもののとりあえずこれまでのデザインでいく事だけは回避できそうです。

 

実写背景と3DCGキャラクターの合成

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人間や背景部分の実写映像に3DCGアニメーションで製作されたキャラクターを合成するという任天堂の人気ゲームを映画化した「名探偵ピカチュウ」と同様の方法が用いられています。

ピカチュウとソニックどうしてここまで差がついてしまったのか…

ポケモンの方は眼球や毛皮の質感がリアルになっていますが等身やプロポーションはそのままでピカチュウとしてのアイコンは保ててるのですが、ソニックの方は元のデザインに対する敬意もなにもあったものではありません。

 

アニメと実写の合成映画作品

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3DCGが無かった時代からの手法で「ロジャー・ラビット」(1988年)、「スペース・ジャム」(1996年)、「ルーニー・テューンズ:バック・イン・アクション」(2003年)などといった手描きアニメーションと実写映像を合成させる形で製作された映画がありました。

スティーヴン・スピルバーグ総指揮、ロバート・ゼメキス監督の「ロジャー・ラビット」ではアニメキャラクターが現実世界に共存しているという設定で写実的にデザインをアレンジするというような事はせずアニメ的なデザインをそのまま実写画面に登場させています。

 

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「メリーポピンズ」(1964年)のワンシーン。こちらも同様の作りに見えますが、メリーポピンズはアニメキャラキャラクターと実写人物とが目線を合わせない事もあり同じ世界にいながらどこか剥離しているように感じます。

対して「ロジャー・ラビット」では先に実写部分を撮影して後からそれに合わせたアニメーションを製作しているので役者の目線の先に合わせるように細かく描かれています。

こうする事で作画が写実的でなくてもぺらっとしていない同じ世界に存在しているように見せる事が出来るのです。

 

3DCGアニメのリアリティレベルの難しさ

今や当たり前となった実写と3DCGのと合成映画はかなりのレベルに進化していますがリアルになった事による弊害も

 

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CGで描かれたゴーストと父娘の交流が描かれる「キャスパー」(1995年)

3DCGでキャラクターが描かれるようになってくるとどんどん質感の表現もリアルに迫ってくるようになります。

CGでなんでもリアルに作れるようになった事でCGキャラクターの質感表現がアニメ的なものからリアルよりになっていきます。

 

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ディズニーやピクサーなどで見られるアニメ的な目の大きなディフォルメされた造形にカツラを被せたような髪の毛や洋服の質感だけやたらリアルなキャラクターになっています。

 

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コミックのBig Hero6(邦題:ベイマックス)と比べると差は明らか。今回話題になった実写ソニックではそのあたりのさじ加減を間違ってしまったわけです。

 

リアリティのレベルをどの段階に落とし込むのかは作品のトーンなどによって様々でしょうが最近の作品で面白いと思ったもので「スパイダーマン:スパイダーバース」を例にとって紹介します。

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実写的な雰囲気をまとったCGアニメが多いなか、それぞれ違ったコミック表現のキャラクターたちを同じ空間に存在させているのが面白い。例えばこの画像、左から2番目の女の子は日本のアニメのようなセル画タッチで描かれ髪の毛のハイライトもその横の金髪のキャラクターとはタッチが全く異なっています。

 

右から2番目のグレートーンのキャラクターは手描きコミック風でスクリーントーンのようなドットで影が表現されていて一番右の平面っぽいキャラなどそれぞれタッチや陰影の付け方が異なるキャラクターを作り上げていますがそれらは一度3Dで作ったものにタッチを加えて手描き風にしているのだそうです。

 

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同じような手法は「ジョジョの奇妙な冒険」で神風動画が製作している1~3部のOPムービーにも見られます。

 

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3Dでモデリングされたキャラに原作のような線のタッチを被せている。太さやエッジの違う数種類のタッチを被せる大変手間のかかる作業を行っています。

 

「ドラゴンクエスト」の3DCGアニメ映画化

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RPGゲーム「ドラゴンクエストⅤ」を原案として製作された映画版ドラクエが8月に公開になります。こちらのデザインも賛否両論でしたね。「STAND BY ME ドラえもん」の山崎貴監督が手がける。

 

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もうどうせなら実写で撮ってくれと思ったりもしていますが…勇者ヨシヒコみたいになりそう

 

ガイナックス製作の実写版「ドラゴンクエスト」

ドラゴンクエストの実写といえばガイナックスが製作している実写版があるのをご存知でしょうか?「ドラゴンクエスト ファンタジアビデオ」というミュージッククリップで岡田斗司夫をはじめとした当時のガイナックスメンバーが製作していたオフィシャルのビデオです。

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ロトの剣はゼネラルプロダクツ製作で後にガレージキットとして販売されました。ロトの剣をはじめとしたDQ公式ガイドブックに掲載されている武器や防具のデザインもガイナックスのアニメーターによるものだそうです。

当時の岡田はロトの剣の他にも色々なDQグッズをゼネプロで販売しようと企んでいたそうですが、販売許諾がおりたのはこの剣のみで、エニックス側は数年に1本しか出ないドラクエだけで社員をに給料を払っていけないので出版やグッズ展開も全て自社で行うとして譲らなかったのだそうです。

 

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庵野秀明演じる竜王。ダイコンフィルムの「帰ってきたウルトラマン」もそうですが撮る側よりも演じる方が好きなのでしょうか?

 

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岡田、山賀、庵野、赤井、貞本といったガイナックスのメンバーの他に樋口真嗣やプロデューサーには真木太郎の名前も…制作費は1億5千万円。

www.zero-note.net

まとめ

「アベンジャーズ」シリーズや「スターウォーズ」シリーズのような失敗が許されない多くの人間が関わり慎重に製作された超大作映画もあれば誰か途中で止める奴は居なかったのかと思うような歯止めの利かない映画も沢山生まれてきています。

CGで何でも作れると思われていますがCGを使うのもまた人なので時にとんでもない代物が出来上がってしまう事もあるのも事実です。

それでは以上、『実写版ソニック・ピカチュウに見る3DCGアニメ映画のリアリティレベルの難しさ』でした、

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